読書が最も進む季節にぜひ読んでおきたい「人生を考えさせられる良書」をモッティの独断と偏見でピックアップ。
愛!感動!夢!希望!そんな24時間テレビみたいな厚かましい本は秋の夜長には適しません。「人生を考えさせられる」だけあって重たく、ズシッと心にのしかかる。しかし異世界を垣間見ることで得られる不思議な読了感。日常では決して得られない貴重な体験をしたかのような爽快感。
そんなじっくり何かを考えたくなる良書を3冊紹介します。
人生を考えたくなる良書3冊
藤原てい著「流れる星は生きている」
秋というより8月に読むべき本かもしれません。終戦期、旧満州からの壮絶な「引き揚げ」を描いた本。
完全なノンフィクションなのか、一部フィクションを交えているのか色々と議論があるようだけど、しかし現代では到底想像することも出来ない過酷な「引き揚げ」の一旦を知ることが出来る藤原ていの代表作。
重たい。めちゃくちゃ重たい。そんな簡単な言葉で表現するのも憚られるくらい重たい。
もしかしたら現代でも世界のどこかで似たような過酷な状況にいる人々がいるのかもしれない。しかし現代のこの平和な日本では絶対に起こり得ないこと。今の自分達が極めて平和で快適な世界で暮らしていること、そしてそれは先人たちの苦労の上に成り立っていること。今という時代にこの国で生まれ育ったことがつくづく幸福なことなんだと痛感する本。自分自身の日々の悩みが稚拙で、取るに足らない、安直な、どうでもいいものに感じられるほど、作中で描かれる人々の苦悩が暗く悲惨で重たい。
生きること、人間の本能、幸福や平和。そんな事をまざまざと見せつけられる。昔この国でこういう惨状を経験せざるを得なかった人たちがいた事を忘れてはならない、後世に語り継がれるべき一冊。
「人生とは?」を考えることが出来る余裕がある時点で既に充分幸福だ。作中の彼女らにそれを考える余裕など無かったのだから。
ジョン・クラカワー著「荒野へ」
英語名「INTO THE WILD」。アメリカのとある裕福な家庭に生まれた青年が人生に苦悩し葛藤し、貨幣経済、資本主義社会と決別し大自然の中での自活を目指した旅を追ったノンフィクション。
アラスカの人里離れた荒野で発見された青年の腐乱死体。その彼がなぜそこにたどり着き、なぜそこで自活しようとしたのか。その足跡を登山家でもあるジョン・クラカワーが追う形式で展開される本。
裕福な家庭で育ち、アメリカの中でも上位に位置する大学を出、そのまま進めば極めて安泰な人生が約束されたであろうが、きっと彼はそこに大いなる疑問を感じてしまったのだろう。
人によっては「全く共感の湧かない単なるキチガイの愚行」と罵るかもしれないが、なぜか彼の行動に「なんかわかる気がする」共感ポイントが多数存在することが、この本に惹きつけられる理由だと思う。彼も彼なりに「幸福とは?人生とは?生きるとは?」を真剣に考えた結果、少し狂気も混ざったのは否めないが、自分らしい生き方を選択したに過ぎない。彼自身の日記も見つかっていることから、荒野を分け入り大自然の奥深くへと入り込み望んだ生活を営む充実感や打って変わってその苦悩、やがて命を落としてしまう「ミス」への失望、死を覚悟して書いたと思われる文章など、ひとりの若者が必死に生きた鬼気迫る姿が克明に描かれている。
親への反発や惹かれたレールをただ進むだけの人生、本当の自由、本当の自分、本当の生き方。それをうやむやに出来ず必死で追い求めた彼の生き方は真似は出来ないけど、共感できる点も多い。
痛々しく、悲しい。しかし「自分の人生を生きる」という強烈なエネルギーを感じることの出来る一冊。
寺尾玄著「行こう、どこにもなかった方法で」
寺尾玄?バルミューダの寺尾さんか!と思わず手にとってしまった比較的新しい本。初の自叙伝と思われるが、しかし帯にあるようなよくある宣伝の為の浅はかな自叙伝では無い極めて真っ当に書かれた良書。寺尾氏の両親の生い立ちから、自身の幼少期、少年期、青年期、そしてバルミューダ創業と今日に至るまでの軌跡が克明に書かれている。
「詩人か作家になると思っていた」とあるだけに意外にも(失礼ながら)文章に一文字たりとも無駄がなく、完結で迫力があり、スッと心に入ってくるような内容。その心への浸透力が凄まじく、自分の心の奥底にありながらもしばらく開けていなかった扉がどんどん開いていく感覚。自分自身の忘れていた記憶や感情が、どんどん溢れ出てきて「自分もこんなことを考えていたな」とか、「あの人は今どこでなにをしているだろうか」と忘れていた人の顔が浮かんだり、意図せず厳重に仕舞っていた自分の中の色んな想いが溶け出してきた。
特に幼少期から青年期にかけての部分では寺尾少年の包み隠さない想いが語られることに触発されて、自分自身の記憶や同じようにその頃抱いていたはずの「熱い想い」もそこそこに普通の大人になってしまった感傷等々、色んな想いに浸ってなぜか泣いてしまった。全く不思議な本。
自分の可能性を信じることが出来るか。
バルミューダ創業後の活躍は周知の通りだが、寺尾氏がどういう想いで何を大切にして生きてきたかが記され、その浸透力が異常に高い文章と共に人生の「可能性」について深く考えたくなる一冊。
本は人生のビタミン。
以上、珠玉の3冊を紹介してみました。
こういう、心の奥底まで揺らすような本に出会うとだらだら見てしまうテレビとか、facebookで「いいね!」を貰いたいが為の投稿とか、承認欲求を満たしたいが為のTwitterとか、人生に於いて何の意味も無いことを痛感してしまいます。テレビを見て感動することよりも、ネットでいい話を読むよりも、本を読んで得る感動、心が動く度合いの方が遥かに深い。「本」に「当たる」と書いて本当。本当の感動は本の中にある。
・・・という記事をネットで配信する矛盾を孕みながらおやすみなさい。